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看板を捨て、自らの力で地域社会を変える
地域の中小企業「再生人」として、あらゆる業態の企業・店舗・団体等の経営者から相談を受け、企業を再生に導く「中小企業相談所」。その第一号となった静岡県の富士市産業支援センターf-Biz(エフビズ)のDNAを受け継ぎ、日本各地で相談所が生まれています。
今回は、熊本県天草市に2015年4月に開設されたAma-biZ(アマビズ/天草市起業創業・中小企業支援センター)のプロジェクトマネージャー・内山隆氏と、岐阜県関市で2016年7月に開設を目指している(※)Seki-Biz(セキビズ/関市ビジネスサポートセンター)のセンター長・杉山正和氏、そして同じく7月に開設予定(※)の長崎県五島列島のSima-Biz(シマビズ/新上五島町産業サポートセンター)のセンター長・平義彦氏に、民間企業から地域の再生人へとキャリアチェンジした背景と、見えてきた地域の課題などについてお話を伺いました。なお、モデレーターは愛知県岡崎市のOKa-Biz(オカビズ/岡崎ビジネスサポートセンター)副センター長の高嶋舞氏です。
(※)2016年6月時点の情報です。
中小企業「再生人」が語る「地域活性化」
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天草市起業創業・中小企業支援センター
Ama-biZ プロジェクトマネージャー
内山隆
富山県出身。1989年に東北大学理学部卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現・アクセンチュア株式会社)にてコンサルティング業務に従事。ITから組織変革まで幅広く関わった後、企画・制作・広告会社やIT企業にて、中小から大手企業までをクライアントとして提案型の制作サービスに携わる。その後、非営利のエコ健康住宅会社の起業に参画した後、熊本県南阿蘇村に家族で移住。廃校利用や自然エネルギー活用に取り組むNPO法人に勤務し、半農半X的生活にもチャレンジ。またエンパワメント(持てる力を引き出す)NPO法人も立ち上げた。2015年4月よりAma-biZに勤務。天草の繁栄に関われる今を楽しんでいる。 -
関市ビジネスサポートセンターSeki-Biz
センター長
杉山正和
愛知県犬山市出身。1995年に食品卸売業大手の国分株式会社(現・国分グループ本社株式会社)入社。21年間一貫して営業職として勤務し、食料品および酒類の販売に従事。主に全国展開するスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの大手組織小売業を担当し、PB商品開発、販路開拓、商品育成、商品提案、棚割提案など売場活性化の提案活動に加え、物流改善活動などにも数多く携わる。メーカーと小売業の間に立つ調整役を経験したことから、小売業・メーカーの経営戦略や商品戦略、食料品・日用品など消費財のマーケティングと流通事情に詳しい。グロービス経営大学院経営学研究科経営学専攻修了(MBA)、中小企業診断士(2016年4月登録)。 -
新上五島町産業サポートセンターSima-Biz
センター長
平義彦
長崎県長崎市出身。1993年より長崎新聞の記者として、長崎市の本社、佐世保支社、平戸支局にて、県内の事件事故や政財官界の取材に奔走。2008年からは九州の観光・地域づくりマガジン「九州のムラ」を出版している株式会社マインドシェアにて、離島を含めた九州全域におけるグリーン・ツーリズムによる地域おこしの最前線、フロントランナーを取材する一方、地域活性コンサルティングを経験。その後、2012年から約4年間、株式会社久原本家グループ本社にて、広報担当としてマスコミ取材対応、社内報発刊などの社内広報に従事。また、自然食レストランとして有名な茅乃舎(かやのや)での食育活動なども主催した。
中小企業をサポートし地域の活性化に貢献したい
Q 皆さんは、ご活躍されていた民間企業を辞めて、各センターに飛び込んできました。一歩を踏み出すまでの葛藤や抵抗、それでもチャレンジしたいと思った決め手など、就任までの経緯について教えてください。
内山: 私は富山出身で、東京でコンサルタントの仕事をしていました。しかし、「3.11」をきっかけに都会のもろさを感じて熊本に移住。NPO活動を通じて地域や事業者をサポートしていたときにAma-biZの公募の話を知り、迷わず応募しました。現在は、天草の中小企業支援による島興しに携わっています。
平: ふるさと九州で、新聞記者やメーカーの広報などを担っていました。地域に関わる仕事を続けるなかで、もっと地域づくりの仕事をしたい、小規模事業者をサポートして地域を活性化したいと考えていました。そんなときにSima-Bizの話を知ったのです。これこそ自分の力を発揮できる場所だと感じて、すぐに応募。会社を辞めるというリスクを考えるよりも、自分の力を生かせる場所で生きていくことが、結果的には家族の幸せにもつながると思いましたね。
杉山: 私は愛知出身で、地元で食品商社に勤めていました。30歳のころ、東京への転勤を希望し、東京で働き始めたのですが、自分の成長曲線が緩やかになっていると感じ、グロービスのビジネススクールに通い始めました。
会社ではそれなりのポジションをいただいていましたが、ビジネススクールで出会った起業家たちの話を聞いているうちに、「◯△会社の部長」というような肩書きを得て、この先何が楽しいのだろうと思うようになったのです。リスクを取ってでも何かにチャレンジすべきだと、4年くらいはもやもやしながら過ごしていました。
ですから、Seki-Bizの公募を知ったときは応募することに躊躇(ちゅうちょ)しませんでした。日本経済を良くしたい、そのためには大企業ではなく中小企業の支援をすべきだと考えていたので、「このチャンスを逃したら次はない」と思ったほど。正直、内定をいただき、いざ会社を辞めるときは「怖いな」とは思いましたが、今は飛び込んで本当に良かったと思っています。
「相談できる場所」への大きな期待
Q 杉山さんと平さんはセンター開設前ですが、内山さんは1年前からAma-biZで活動をされています。地域活性化に貢献できているという感触や成功事例はありますか?
内山: 最初は相談に来てくれるのかドキドキしながらのスタートでした。でも実際は多くの方が相談に来てくださっていて、微力ながらも貢献できていると感じています。また、Ama-biZ開設のイベントをした時、450人くらいの事業者が来てくれました。地域の期待をひしひしと感じています。天草は「宝島」といわれているのですが、まだ宝は埋まっています。それを掘り起こし、天草の強みを見つけながら可能性を広げていけるのは、チャレンジしがいがありますね。
先日、技術はあるのに業績が伸び悩んでいた中小企業を支援しました。原因は自らの強みをうまく発信できていなかったこと。そこで発信方法を変えると新しい発注先とつながり、売り上げが上がったのです。こういう成功体験を増やしていきたいです。
Q ありがとうございます。杉山さんと平さんも現場での研修を通じて、地域活性に貢献できそうだという感触は得られていますか?
杉山: 私は先週から関に常駐しているのですが、たった1週間でもSeki-Bizへの期待値の高さを感じています。市長が強く周知していることもありますが、それ以上に「相談できる場所」ができることに対する期待が高いですね。
プレッシャーはありますが、現状を打破したい経営者が多いですし、若者も関の産業を復興させようと活動しています。そこをサポートしたい。地方創生になくてはならない事業だと思っていますし、社会貢献度も高いと感じています。
平: 自営業で仕事をしている人は孤独です。相談場所がないことは、記者時代からよく聞いていました。家族はもちろん、町役場に相談しても答えが見つからないのです。だから、相談を一つずつ丁寧に聞いて、信頼を勝ち得て、地域活性化に貢献していきたいと思っています。
本当の強みは知られていない。地方は可能性にあふれている
Q 実際に地域に入ることで見えてきた課題を教えてください。
杉山: 地方はやる気のある人がたくさんいることを実感しています。外から見ていたときは、正直あまりやる気がないのかなと思っていましたが、中に入ってみて、そんなことはありませんでした。行政や市に頼るのではなく、自分たちで動いて一緒に町を変えよう、経済を変えようというきっかけがあれば、地方は変わっていくのだと思っています。
内山: 島の経済は、島の中を中心に回ってきたことがよくわかりました。価格も見せ方もそうです。外から見たら価値があり、今の価格より3倍高く売れる、なんてこともよくあります。その、外から見たときの価値を、私が「よそ者」としてアドバイスしているのですが、可能性はたくさん眠っていると感じています。
Q 平さんは、内山さんと同じ「島」でのチャレンジが始まりますが、どんな課題があると思いますか?
平: 細かいことはまだわかりませんが、島民は島をハンデに思っている節があります。たとえば、波が荒れると観光がキャンセルになってしまいますから。でもハンデじゃないんです。島には、そこに来ないとできないことがたくさんある。観光はもちろん、五島のおいしい魚もそこでしか食べられません。ですから、叱咤(しった)激励をしながら、島の仲間として外からの目線でアドバイスしていきたいですね。やれることはたくさんあると思っています。
Q 「島興し」は地域活性化に携わりたい人の多くが興味のある分野だと思います。一方、中小企業支援が「島興し」につながるんだということにピンとこない人も多い。「島興し」の根幹にある大切なことは何でしょうか。
内山: 島興しイベントなど、一時的なカンフル剤はそれなりに意味がありますが、根幹にあるのは日々の生活やお金の流れです。実業が動いて初めて地域が活性化しますし、お金が回らないと地元の人も豊かな暮らしを営めません。
私は5年前に熊本に来るまで、天草の名前は知っていたけれど何が素晴らしいかは知りませんでした。来て初めて、観光や食、人、自然、地場産業などたくさんの強みがあることがわかりました。本当の素晴らしさは知られていないことが多いのです。ですから、いい素材や強みを持っていることをまずは地元の人に自覚してもらい、情報を発信していくことが大切です。そこで課題になるのは人材不足。移住者も増えてほしいですね。
地域社会、そして日本を変える「きっかけ」に
Q 日本各地でこれから開設するセンターに応募してほしい人物像やメッセージをお願いします。
内山: 主役はその地域の人や事業者です。彼らに共感して、後ろから背中を押すという、ある意味黒子のような仕事を楽しめる人にチャレンジしてもらいたいですね。私は、Ama-biZがあるから事業が成功するのではなく、天草だから成功していると事業者に思ってもらうのが目標です。Ama-biZは事業者にとって一つのきっかけにすぎず、自分たちに力や強みがあることを自覚してもらいたいと考えています。
平: 大切なのは二つあって、一つは「意地」があること。たった一人でも、何があっても最後までやろうというガッツが必要です。もう一つは「人を巻き込む力」。この二つの要素を持っている人に来てもらいたいです。五島列島は豊かな島です。クジラ肉などの海産や五島うどんなどの伝統的な食文化があります。だけど「島には何もない」という島民が多いので、Sima-Bizが島の素晴らしさに誇りを持つきっかけになりたい。目標は、アジア地区での島興しのモデルになること。頑張ります。
杉山: 自分と照らし合わせると、現状に悶々(もんもん)としている人がいいと思います。会社の力で仕事ができているのか、自分の力で仕事ができているのか悩んでいる人にはチャレンジしてほしい。私は「中小企業を良くしたい」「社会に貢献したい」と思っていました。そしてそういうチャンスを得られたと思っています。どんな動機でもいい、ぜひ飛び込んできてほしいです。人生をかけてできる仕事、本当に意味のある仕事がここにありますよ。
静岡県富士市産業支援センターf-Bizセンター長、小出氏よりメッセージ
小出: 中小企業の課題を解決するために必要なのは、知恵と具体的な解決策です。たとえば、病院で検査をしてもらい、医師にその結果を提示されて「あとは自分で健康になってください」と言われても健康にはなれません。具体的な治療や手術をすべきで、中小企業を元気にするのも同じことがいえます。日本の99.7%が中小企業で、すべての企業に経営課題があり、それを解決したいと願っている。そこに知恵を絞り、具体的手法を追求しているのが私たちというわけです。
この仕事は本当に意義のある「究極の地域おこし」です。すべての企業が持つ、個別のセールスポイントや本質を見抜き、オンリーワン要素を見つけて深掘りすることで、倒産寸前の会社が生き返った事例は山ほどあります。成果は目に見える形で分かり、心の底から感謝される仕事は他にないでしょう。ぜひ一緒に、中小企業を再生させ、さらに日本を活性化させるというミッションを担いませんか。あなたの挑戦をお待ちしています。
モデレーター
長崎県壱岐市
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壱岐市は、福岡県と対馬市の中間に位置し、玄界灘に面した長崎県の離島です。近隣の大都市圏である福岡市とは、高速船で片道約1時間で往来できます。
産業としては、第1次産業の農業、漁業が基幹産業となっていますが、高齢化と後継者不足が深刻な問題となっています。
商業は生活関連商品を扱う小規模店舗が中心であり、工業には建設業を主として、特産品である麦焼酎・水産加工などの製造業、造船業、木材加工業があります。大半が家内工業的な小規模事業者です。
本市は離島というハンデに加えて、島内には長引く不況による閉塞感が充満し、さらに少子高齢化による人口減少が追い打ちをかけ、地域の活気が失われかけています。この状況を打破するには、島内の事業者一人一人と向き合って、そのチャレンジスピリットを呼び起こし再生していく「f-Biz」モデルの産業支援による地域活性化しかないという市長自らの強い思いの下、本市の最重要施策と位置付けて取り組んでいます。
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